手羽作文

備忘録と反省文を兼ねて書くブログ

つけめん屋「やすべえ」で野暮なこと聞いちゃった話

それは仕事帰りの赤坂で…

その日、私は後輩と赤坂の街を歩いていた。とある撮影のあと、借りていた機材を返しに行った帰りで、後輩はそれを手伝ってくれたのだった。

 機材の返却というすべての工程が終わった我々は、メシにすることにした。ちょうど赤坂にはつけ麺屋の「やすべえ」がある。「やすべえ」が好きな私は、すかさず、「やすべえ」に行くことを提案したところ、後輩は「やすべえ」に行ったことがないという。

 ならば、ぜひ後輩にはこれを機に「やすべえ」の美味しさを知って欲しいと思った私は、彼に「やすべえ」をおごることにした。

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「やすべえ」の店内にて…

普段、結構混んでいることの多い「やすべえ」だったが、その日は行列もなく、空いている。私は仕事終わりの開放感もあって、券売機の前で、後輩に向かって朗らかに

 「何でも好きな物食えよ」

と先輩風を吹かしていた。

後輩もよくできた男で、「何でもいいんですか!?ありがとうございます!」と大げさに驚いてみせたりしつつ、それでいてオーソドックスな「つけめん」のボタンを押したのだった。

しかし、オーソドックスなつけ麺だけでは、「何でも好きな物食え」と言ったこともあり、少し奢り足りないような気分である。

私は、トッピングのボタンが集まっているエリアを指差して、

「この辺も遠慮せずに頼んでいいぞ」

と、後輩の背中を押すつもりで勧めた。彼も1日頑張って、腹が減っているはずなのである。トッピングがついた方が嬉しいだろう。

ところが後輩も、やはりよくできた男で、しきりに恐縮している。

しかし何回も私が勧めたところで、ついに後輩が折れ、

「じゃあ…」と言った。

そこで押したのが、

 「コーラ(200円)」のボタンだった。 

 

私はあまりのことに狼狽えた。私の想定ではてっきり彼は「煮卵」とか「メンマ」とか、何なら「チャーシュー盛り合わせ」的なやつを頼むと思っていたのだ。

たとえ一番高い「盛り合わせ」が来ても、眉ひとつ動かさない自信があった。

それが、実際はコーラである。

コーラは完全に私の意表をついていた。

なぜなら、コーラは200円なのである。

仮に「やすべえ」の提供するコーラがビンであれ、ジョッキであれ、「やすべえ」から1歩外に出れば、それよりも大容量のペットボトルコーラが150円で買えるではないか。50円以上も割高なコーラを、わざわざ今、「やすべえ」で飲まなければいけない理由は何もないのだ。

しかも、コーラはつけめんに合わない!

「やすべえ」のつけめんは醤油ベースの、すっきりとしたつけ汁が特徴なのである。言ってみれば「和風」だ。そのつけめんにコーラが合うだろうか。私は実際に合わせたことはないが、「絶対に合わない」と断言できる。

私は、勝手な善意だが、彼に「やすべえ」のつけめんを思う存分味わって欲しかったのである。それならば、「やすべえ」の職人さんが試行錯誤の末に作り上げたトッピングの品々も、その一助になるだろう。

しかしコーラは違う。

コーラはコーラである。ハンバーガー片手にアメリカ人ががぶ飲みしている飲み物なのだ。果たして「やすべえ」の一助になるのだろうか。いや、なるまい。

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まさかのコーラ。そして… 

呆然とする私だったが、しかし、後輩は何も悪いことはしていない。勧められるままにボタンを押しただけなのだ。私が彼の行動にクレームをつけたら、それこそ器が小さすぎるというものだろう。

 私は黙ってコーラの食券を受け取って店員さんに渡し、席についた。そして、つけめんを食べた。「やすべえ」のつけめんはいつも通りおいしく、後輩も「美味いっすね」と言いながら食べていたが、彼の傍らにはもちろんビンのコーラが置かれており、私は、「コーラと同時に食べて、味がわかるのだろうか…」という邪念を振り払うことができないまま、食事は終了した。

最後に私は意を決して、しかし、今ふと思いついたかのように、「何でコーラを頼んだの?」と聞いてみたのだが、後輩は、

「いや〜何か、飲みたかったんですよね〜」

と答えた。

「飲みたかった」

 コーラを飲むのにそれ以上の理由があるだろうか。いや、無いのだ。

「野暮なことを聞いてしまった…」

私は、敗北感を抱えながら、家路に着いた。