kaitensushitaro.hatenablog.com
この「ハリウッド映画祭参加日誌」もついに最後の記事になった。ついに、というか、よくここまで時間がかかったものである。映画祭が終わって間もなく5ヶ月が経とうとしている。私の記憶も曖昧になりつつある。そして人間ドックにはまだ行っていない。毎日仕事に追われているからだ。バカである。冬が終わり春になった。ワニも100日が経ち死んでしまった。
そろそろ書き終わろう。
ハリウッド滞在の3日目の午後、映画祭を終えた私は「Museum of Death(死の博物館)」に向かった。これは、Google Mapで色々見ていた時に偶然見つけた博物館で、調べてみると、訪れた日本人のブログ記事もいくつか見つかった。それによれば、「死の博物館」という名前の通り、死体写真、殺人鬼の手記、骸骨や凶器などが多数展示されている、個人経営の博物館らしい。館内は撮影NGのため、行かなければそれらを見ることは出来ない。
「せっかくなので日本じゃ行けないところに行こう」と思った通りの場所だが、そういうことなのだろうか。分からないが、そんなに遠出もできないし、ハリウッド大通りをまっすぐ行けばいいだけだから、とにかく行こう!と思い立ち、歩き出した。
だが、分かってはいたつもりだったが、私の想定の何倍も、ハリウッドは広かった。通りは1本なのに、果てしなく遠い。50分くらい歩いただろうか。もはや夕暮れに差し掛かる頃、ようやくたどり着いたのだった。
中に入ると、「気分が悪くなっても責任取らないよ」という注意書きが。そして、受付のお兄さんに荷物を預けなくてはならないのだが、そのお兄さんが、ティム・バートンの人形劇くらい青白く、革ジャンを着た「ザ・ヤク中のバンドマン」みたいな風貌なので既に怖い。色々とルールを説明してくれるのだが、破ろうものなら容赦無く刺してきそうな気がする。
中の展示物は、「ああ、俺、英語読めなくてよかったかもな」と思う程度にはグロく、説明文を読んでないだけまだマシという感じだった。特に、交通事故の死体写真のコーナーのインパクトは強く、自分もこれになる可能性があると思うと恐ろしく、結構教育的な意義もあるんじゃないかと思ったりもした。館内には結構人がいて、カップルとか、女性だけのグループもいたりして、女性が多い印象だった。
そんな中、突然スマホにメッセージが届き、なんと映画祭で出会ったQさんが、「時間があるので合流したい」というではないか。死の博物館にいるとは伝えてあるので、Qさんも物好きとしか言いようがない。Qさんはアメリカ在住なので、まさか歩いては来ないと思うが、私は展示物をもう半分以上見たところだったので、しばらくQさんを待つ必要がある。
すると館内に椅子が置いてある休憩コーナーを発見。散々歩いてクタクタだったこともあり、そこで待つことにしたのだが、そこではモニターに資料映像が流れていて、それは太った男の死体を解剖する様子をノーカットで見せるというとんでもないビデオだった…。Qさんが来るまで私は太った男の死体が解体される様子を延々見なければならない…。全然見たくないが、館内に座れるところは他にないのである。脂肪って中は黄色いんだなあ……。全然求めてない情報を得ながら私はQさんを待った。
果たしてQさんは私が死体解剖ビデオの2周目を見始めたあたりで現れた。顔色一つ変えずに展示物を見て回るのは、さすが、アメリカ歴が長いからだろうか。何にせよ心強い仲間ができた。私とQさんは、受付のティム・バートン風兄貴に別れを告げ、「死の博物館」を後にした。「死の博物館」、よっぽど暇な時は是非オススメです。
さて、Qさんは私のハリウッド観光に付き合ってくれるというので、私は先ほど大通りを歩いた時に気になっていた「Museum of Selfies(自撮り美術館)」というスポットに行きたいと申し出た。するとQさんは慣れた手つきでUberを手配。瞬く間にUberの車が現れたのだった。図らずも、「Uberに乗ってみたい」というこの旅の目的が達成されることになった。Uber運転手は何だか重低音を流している大柄な黒人の人だったが、怖いことはなく、ほぼタクシー1メータくらいの距離で我々は降りた。こんな短距離でも手軽に乗れるとは、聞いていた通りかなり便利だ。アメリカは広い。とにかく歩くのは無理があるのである。そしてやってきた「自撮り美術館」。結構入場料が高い。25ドルだったかな。
私はてっきり、自撮り写真ばかり集めて展示しているのだと思ったのだが、中に入ってみたら、自撮り用の背景があるだけのスタジオだった。騙された…!完全に観光客向けの安い施設だった…!だが、悔しいので私もQさんも自撮りに挑戦する。
なかなか酷い出来だが、もう楽しむしかない。25ドル払っているのである。そして、自撮りじゃどうしようもない背景も多い。Qさんがいてくれてよかった…!
そんな感じで自撮り美術館をそれなりに楽しんだ私とQさんが最後に向かったのは、朝見つけた寿司屋である。Qさんには申し訳ないが、私は海外のリーズナブルな寿司屋がどんなもんなのか、行ってみたかったのだ。
例えば、イタリア人がサイゼリヤを見たら多分笑うのと同じように、私にとって「Hollywood SUSHI」もなかなか面白い店だった。店の内装はまるで日本の祭りのようだが、店員さんは韓国語の服を着ているし、アジアのイメージがごちゃ混ぜになっている。
メニューには握り寿司はほとんどなく、多いのは「ロール」である。
さらに、「Appetizers(前菜)」の欄を見ると、枝豆やビーフ餃子などと並んで「揚げ出し豆腐」があるではないか!揚げ出し豆腐が「前菜」というのも変だが、掲載されている写真も面白い。
いくつかの寿司、ロールと、揚げ出し豆腐を頼むことにした。
そして、届いたのがこれである。
寿司は、スーパーの惣菜寿司と同じくらいのクオリティで、不味くはないのだが、まあ、店で食べるにしては物足りないなあ、という感じ。そして揚げ出し豆腐は、豆腐をフリッターのようにしており、甘辛いタレにつけて食べるという謎の料理に変貌していた。タレは、例えるなら、伊勢うどんのタレに味が似ている。(わかりづらいが…)とにかく濃くて甘いのである。まあ、不味くはない。不味くはないが美味しくもない。全体的にそんな感じだ。そんなに繁盛してる感じもない。ただし、サッポロのジョッキで出てきたビールはやたらと美味かった。中身もサッポロなのだろうか。
この店で寿司をつまみつつ、Qさんと映画のことを話していたが、私の腰痛もあまり良くなかったので早々に解散となった。Qさんには色々と付き合っていただいておきながら、最後には腰痛で解散ということで申し訳なさがあったが、とにかく明日の飛行機移動のことを考えると無理はできない。
ついに、ハリウッド最終日が終わった。最後、ホテルに戻った時、ロビーでイベントをやっていて、警備員に「ここ、立ち入り禁止ですよ」と言われたのだが、「I stay here(私、ここに宿泊してるんですよ、の意)」とスッと出てきたのは、何だか今回の俺の英会話の集大成という感じがあったな……。(低レベル)
そして翌朝、私はまたもやタクシーで空港までたどり着き、なんとか飛行機に乗り込んだ。帰りの道中のことはあまり覚えていない。いつだって、旅の帰りはあっという間なのである。「ズートピア」を見たことしか覚えていない。
ようやっと私も海外旅行に慣れてきたのだろうか、あの、成田空港に降り立った時の、高揚感はいつもほどはなかった。ロサンゼルスに日本人が多かったからだろうか。
まあとにかく、腰も無事で、日本に帰ってきた。空港で、借りていたワイファイなどを返却する。その時、私は気づいた。「ili」がない!!!
あの夢の翻訳機、「ili」が無くなっているのである。そういえば「ili」はお守りがわりにジャケットの胸ポケットに入れていたはずだった。それがいつからか無くなっているのだ。テンパりつつも写真を遡ってみると……
ということは、「自撮り美術館」のどこかで無くしているのである。
そして、決定的瞬間はQさんが撮ってくれた動画に収められていた。
私が顔文字ボールの海に遠慮がちにダイブしたこの瞬間、夢の翻訳機「ili」は胸ポケットから飛び出し、顔文字の書かれたボールの海に沈んでいったのである。そうとしか考えられない。
なんということだろう……。
もう海の向こうに取りに行くこともできない。こうして、レンタルした「ili」を紛失したことにより、私は4万円の弁償代を払うこととなった……。ジョーカーにカツアゲされた2000円よりも、「自撮り美術館」の2500円よりも、自分のうっかりミスの代償の方が、はるかに高かったのだ…!!
こうして私のハリウッド映画祭弾丸ツアーは、翻訳機紛失で多額の弁償代を支払うという衝撃のラストを迎えてしまったが、まあ、それを抜きにして考えれば、ハリウッドのチャイニーズシアターで自作品が上映されるという名誉なことに立ち会えたのは非常に良い思い出であった。そして海外に行くと自分の無力さや未熟さが浮き彫りになるからそれも良い。浮き彫りになり過ぎ、という説もあるが……。まあ、いいじゃないか。とにかく良いことも悪いことも充実した出張であった。
関係者の皆様、現地で出会った皆様、ありがとうございました。