手羽作文

備忘録と反省文を兼ねて書くブログ

ハリウッド映画祭参加日誌 〜ハリウッドルーズベルトホテルに着くまで〜

成田発、ロサンゼルス行きの飛行機の中でこの文章を書いている。17時に成田を出発して、既に4時間が経過した。機内は消灯、闇に包まれているが、私は眠れないため、この文章を書いている。夜型の生活を送る私にとって、21時はまだ昼下がりのようなものだ。そういう意味では、生活サイクルは既に米国人と同じである。逆に日本基準で見れば、常に時差ボケしているようなものだ。その状態で今までやってこれたのだから、正しいサイクルに矯正すれば、たちまち天下が取れるのではないだろうか。一度、刑務所にでも入るしかない。

さて、なぜ私がロサンゼルスに向かっているのかというと、「Japan Cuts Hollywood」という映画祭に参加するためだ。その名の通り、ハリウッドで行われる日本映画ばかりを集めた映画祭で、その短編部門で、私が監督した「VR職場」が上映されるのである。

www.youtube.com

www.japancutshollywood.com

なんと会場はハリウッドの中心にある有名な映画館、チャイニーズシアターだ。「アメリカのチャイニーズシアターで日本映画の特集」というのも、ややこしい話だ。「名古屋名物台湾ラーメン アメリカン」を彷彿とさせるが、まあとにかく、自分の作品があのチャイニーズシアターで上映されるのだから、一生の思い出になるだろう、という気持ちで行くことに決めた。どうやらレッドカーペットには篠原涼子さんまで来るようだ。作品募集がかかっていたときはここまで大事になると思っていなかったが、私のような映画初心者の作品を選んでいただいたということは、まあラッキーとでも言うしかない。

 

そんなことで、ハリウッドに行くと決めたはいいものの、私はフリーランスになってから海外に行くのは初めてだ。通信はできるとはいえ、実質5日間、作業が止まることになる。会社員なら、社内の了解が取れていればなんとかなるが、現在の私は大小合わせて約10の仕事を抱えており、それもサイクルの速いネット動画業界であるからして、5日間もあれば締め切りだって沢山あるのである。関係者への周知と、前倒しの作業で、10月はめまいがするほど忙しかった。なるべく自由になりたいと思って選んだフリーランスの道だったが、5日間空けるだけでヘトヘトになってしまうのは果たして自由と言えるのだろうか。休むより仕事してた方がむしろ楽というのは不思議なものである。どうも今回のことで、自分がいかに働きすぎかという実感も出てきた。働きすぎの割には稼げてないような気もする。その辺に一旦冷静になって向き合うのも、今回のアメリカ行きの目的の1つだ。

そんな忙しさと関係があるかどうかは知らないが、8月末にぎっくり腰で救急車で運ばれてから、体調は崩しっぱなしであった。

・外耳炎

扁桃

・目の炎症

・原因不明の咳

・慢性的な胃の不快感

次々に襲って来る「まあまあ辛い」症状の数々。決して仕事を休んだり入院したりするほどではないが、元気でもないという状態だ。毎週何かしらの病院に通う日々。さらに腰痛も予断を許さない状況なので、鍼灸院にも通った。今も、咳は完全には治っていない状態だ。突如として襲ってきた不調の数々に、精神的にも辛い日々が続いた。運が悪いだけならまだいいが、大病の予兆だったら最悪だ。帰国したら健康診断にでも行こう。そんな暇があればの話だが。いや、時間は作るんだ。書きながら自分に言い聞かせている。

何しろ今年に入って既に2回も爆発した腰を抱えての10時間フライトである。数日前には鍼灸院で全身に針を打って十分なメンテナンスを施してきた。仕組みはよくわからないが、施術後にわかりやすく痛みが軽減されるので信頼している。だが、それでも10時間フライトに対しては、全くもって不安しかない。ここを乗り切っても帰りだってある。我が腰は負債をため込んだ後、予兆などなく突然爆発するのだ、ある意味、私と性格が似ている。

久々の成田空港だった。ターミナルには、季節を先取りしてクリスマスの飾り付けがされていたが、雑な和洋折衷サンタが多数設置してあり、旅行客たちの記念撮影スポットになっていた。

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国際線ロビーに設置された、狂気のサンタたち

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忍者サンタは窒息しているようにしか見えない

空港でも仕事を2つ片付けた。搭乗ゲートでもまだメールを打っている。そんなこんなでガイドブックは買ったが読んでおらず、英会話フレーズ集もお守りがわりに買ったが全く読んでいない。4年前のスリランカ旅行で英語力を身につけることを誓ったはずだったが、喉元過ぎればなんとやらで、スリランカの大仏にも呆れられているだろう。だが、今回旅のお守りはもう1つある。自動翻訳機のili(イリー)である。なんと日本語で話しかければ自動で英語に翻訳してくれるという。ついに新時代の幕開けだ。頑なに英語力を身につけなかったからこそ受けられる最新技術の恩恵だ。そんなわけで慌ただしく貸し出し手続き、仕事に追われたあと、機上の人になったのだった。もはやネットは繋がらない。忘れていた仕事があってももうどうしようもない。

ちなみに今回はJALなので、機内の言語コミュニケーションは安心だ。一通り、正面のモニターのコンテンツをチェックする。映画、バラエティなど様々だ。結構最新作まである。なぜか千鳥の「相席食堂」と「アメトーーク」が1エピソードずつ収録されている。ゲームは非常にシンプルで、将棋やリバーシなどの基礎的なものしかない。もうちょっと充実しても良いような気がするがどうだろう。スリランカのカエルが石を吐き出すゲームはやはりJALにはないようだ。

久々にテトリスをやってみる。ひたすら石を積んでいく作業……ソビエト風の音楽……頭の中に「労働」という文字が出てきてやめた。とにかく、まだ脳が疲れているのだろう。「アメトーーク」でも見ようじゃないか。まだ先は長いのだから。

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【数時間後】

 

あと1時間で到着するとのこと。日本時間でまもなく深夜3時になる。普段だったらこれから寝るような時間だ。アメリカでは朝の10時らしい。よく考えたら、昼夜逆転でも、全然アメリカには合ってなかった。むしろ真逆だった。そろそろ眠くなってきた頭で、私のハリウッド一人旅が始まろうとしている。不安でいっぱいだ。

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機内での朝食は吉野家。もちろん美味いが、わざわざ空の上で食う意味があるのかは不明

何だかんだで到着は2時間ほど遅れたらしい。現地時間AM12:00、私はロサンゼルスに降り立った。日本の深夜5時。めちゃくちゃ眠い。いつもならちょうど就寝している時間であった。まあとにかく、これからは異国なのだ。油断は禁物である。

出国審査には巨大な行列ができていた。何重にも折りたたまれた行列が続いている。窓口は少ししか空いていない。行列は全く進まない。これは、1時間はゆうにかかるのではないだろうか。私は行列に並ぶのが苦手だ。しかし、無力な私はその暴力的な行列に並ぶしかないのである。人種も様々な人々がおとなしく列を作っている。例えば戦時中に亡命した人たちとか、難民の人たちとか、きっとこういう行列に気が遠くなるほど並んだだろう。ついそんなことを連想した。旅慣れていない私は10:00に飛行機がつく予定と聞いて、15:00にホテルにチェックインするまでの5時間で、どこか見に行けるのではないか、と考えていた。甘かった。13:00をすぎても、私はまだ入国審査の列に並んでいた。

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自由の国アメリカへの第一歩は不自由な入国審査から始まった

入国審査をやっとの事で通過すると、ロサンゼルスの強い日差しが目に入ってくる。これがアメリカ合衆国第2の都市、ロサンゼルスの日差しか。ロスと呼べば外国人には通じず、LAと呼べばなんか気取った感じになる、あのロサンゼルスである。何となく、ローラがよく行ってるような、もしかして住んでたっけ?みたいな、そんなイメージがある。

超がつくほどの快晴だった。というか、一年中この天気らしい。日差しは強いが、乾燥しているので不快ではない。まさに聞いていた通りのアメリカ西海岸だった。タクシー乗り場を探したが、なかなか見つからない。どうもロサンゼルスの移動は今やUberが完全に主役になり、タクシーはあまり走っていないらしい。Uberに乗ってみるのもこの旅の目標の1つではあるが、いきなりここでトライするほどの勇気はない。何となく、プロであるタクシーの方が安全なのではと思ってしまう。しばらくウロウロしていると、バスの前でおじさんが「Taxi!」と叫んでいる。どうもタクシー乗り場に行くためにはシャトルバスに乗らなければならないと言っているようだ。

シャトルバスに乗ってみた。飛行機を降りた時には周りにたくさんいた日本人たちはいつの間にかいなくなり、満員のバスの中に日本人は私1人だった。黒人、白人、アラブ人、でかい人、小さい人、スキンヘッド、アフロ。これがアメリカか。教科書に出てきた「人種のるつぼ」という言葉が記憶の彼方から蘇る。「いや、そもそも”るつぼ”を知らねえから!」というツッコミでお馴染みのあの言葉。例えとして成立していない言葉。学生当時は何かバカにしていたが、何十年か越しでようやく実感する。

「人種のるつぼってこれか」

“るつぼ”の意味は今だに知らないけど。

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ロサンゼルス国際空港にはUber乗り場が正式に設置されている。

果たしてシャトルバスは予想通り私をタクシー乗り場へと連れて行ってくれた。ようやくタクシーに乗れた。ついに空港脱出である。タクシー運転手に、滞在先である「ハリウッドルーズベルトホテル」の名前を告げる。タクシーは走り出した。早速だが、魔法の翻訳機「ili」を使ってみる。

「私は日本人です」I am Japanese

通じた。別に翻訳してもらわなくてもこれくらいは自分で言えばいいのだが、とりあえず使ってみたかったのだ。

「ホテルまでどれくらいですか?」

通じた。しばらく使った結果「ili」の打率は大体7割くらいだった。たまに通じないこともある。

「この街でオススメの食べ物はありますか?」

と聞いたときは、タクシーが突然近くのファーストフード店に入りそうになったので、運転手のおじさんに、慌てて「NO!NO!」と伝える。「この店は嫌なのかい?」的なことを言ってるので、「そうじゃなく、別に今食べたいわけじゃない。ホテルに行ってくれ」と身振り手振りで伝えることに。これはiliが悪いのだろうか。それともおじさんが早とちりなのだろうか。ただ、もうそこまで行くとiliを介すのが面倒になってきたため、iliはお守り的にジャケットの胸ポケットに入れ、結局自力のカタコト英語で会話することになった。運転手のおじさんは60代だが、30年前にロシアのモスクワから移住してきたらしい。やはりここでも人種のるつぼである。ということは30代で移住してきたということじゃないか。自分が今からアメリカに移住することなど考えられるだろうか。「なぜ移住したのか?」と聞いてみたが、おじさんの回答は私のリスニング能力の限界により聞き取れなかった。おじさんに、改めてオススメのグルメを聞いてみる。「ハンブルゲン」と言っている。「ハンバーガー」のことだと気づくまでに少し時間がかかった。「インアンドアウトバーガー」というのがおすすめだそうだ。「日本食は食べるか?」と聞いてみた。あまり食べないらしい。寿司とか、食べないのか聞いてみると、「俺は生の魚は食べない」と強い口調で語った。「魚を釣る。切る。BBQ。最高だぜ」と何度も言っていた。とにかく火を通したい人なのだ。「日本人は馬だって火を通さずに食べる」と言ってみたかったが、なんか引かれそうなので、言えなかった。

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タクシー車内から見たロサンゼルス

車窓からロサンゼルスの景色を見ているうちに、私はこの町の巨大さが徐々に分かってきた。基本的にはどんな通りでも4車線以上あるし、道路は真っ直ぐで、結構スピードを出すのだが、街並みはどこまでも続いている。何もかもが密集している東京とはまるで違う。ロサンゼルスにはセブンイレブンが沢山あったが、これだけ街が広ければあの悪名高き近隣出店もできないだろう。私がセブンを見つけて驚いていると、運転手のおじさんがやや得意げに「7時から11時まで開いてるからセブンイレブンって言うんだぜ」と言った。知ってるよ。日本でもその話は有名だよ。

ちなみに、後日現地在住の日本人にセブンの話題を振ってみると、「日本のコンビニみたいに楽しくないよ」と言っていた。コンビニを楽しいと思ったことがなかったので、なかなか新鮮な表現だ。実際にロスのセブンに入ってみると、確かに、食料品が売っているだけの、小さなスーパーのような感じだった。弁当などもなく、パンやサンドイッチ程度だ。そう考えると日本のコンビニは「楽しい」ということなのだろう。些細なところにも「ロード現象」は転がっている。(ロード現象:何でもないようなことが幸せだったと思うこと)

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セブンイレブンがそこら中にある

話が逸れた。ロサンゼルスの巨大さである。それは、道路の広さとか、一軒家の大きさとか、そういうところだけではない。そこらへんの街路樹が大木なのである。このレベルの木、日本だったら御神木だ。下手したら抱きしめて大自然のパワーでももらおうかというレベル。それが、その辺の街路樹として生えている。暗黒大陸に踏み込んだネテロ会長のように「デカすぎる!」と呟いてしまう自分がいた。

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車との対比をご覧いただきたい。デカすぎる…!

一方で巨大な分、高層ビルはあまりないし、空家のようなものも多い。そういう意味では、東京のような「コンクリート・ジャングル」という感じはない。(後日通ったダウンタウンの方はそんな感じだったが)日本の地方都市をスケール2倍にしたような街並みがどこまでも続いているのだ。ロサンゼルス在住の日本人のある人は、「ここは田舎だからね」と言った。確かにそれもわかる気がする。

そんなことを考えていたら、タクシーはホテルについていた。既に15:00を過ぎている。今回泊まる「ハリウッドルーズベルトホテル」はハリウッドのど真ん中、チャイニーズシアターのすぐ前にあり、かつてマリリン・モンローが売り出し中の時に2年間住んでいたという逸話でも知られている。そのため、マリリンの幽霊が出るという噂もあるらしい。実際、ホテルの中には有名人の写真が飾られていた。部屋もバスタブがないこと以外は申し分ない。銭湯をこよなく愛する日本人としては、バスタブのないこの部屋に2年住むのは厳しいと感じてしまうが、マリリンは平気だったのだろう。ちなみに私の眠気はピークに達していた。だが、そこでぐっすり眠るわけにはいかない。17時から人と会う約束があったからだ。

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ベッドに謎の枠がついているが、概ねいい部屋

続く

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