手羽作文

備忘録と反省文を兼ねて書くブログ

いよいよ『Japan Cuts Hollywood』で上映される【ハリウッド映画祭参加日誌⑤】

前回の記事

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さて、デスバレー国立公園日帰りツアーの半分を爆睡して過ごすという大失態の翌日、私は朝6時ごろに目覚めた。例によって時差ボケの影響で、早朝に目が覚めてしまう状態だ。そしてついに今日は映画祭「Japan Cuts Hollywood」に参加する日であり、アメリカ滞在の最終日でもあるのだ。明日の朝には日本に帰らなければならない。体内時計は大混乱だが、元々大して整っていなかったことを不幸中の幸いだと思うしかない。

溜まっている日本からの連絡に返信などしたが、まだ8時くらいである。映画祭の開始は10時なのでだいぶ時間がある。少なくとも、朝食は食べなくてはならない。私は外に出ることにした。ハリウッドは今日も抜けるような快晴である。ハリウッドで映画産業が発達したのは、とにかくずっと晴れているからだということも、この滞在中に知った。

滞在3日目にして、私はそろそろ、「何かをパンで挟んだもの」以外のものを食べたいと思っていたのだが、果たして朝のハリウッドの街には、そのような店は見当たらなかった。謎の寿司屋も見つけたのだが、まだ開店していない。(この店には、夜に訪れることになる)

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のちに訪れることになる寿司屋

とにかく区画の幅が広いので、付近をぐるっと見て回るのも一苦労だ。都内で言うところの一駅分くらいは歩いたが、カフェを除けば、選択肢はマクドナルドか、バーガーキングか、サブウェイの三択だった。

サブウェイしかない。

何しろ、私は昨夜もハンバーガーを食べている。その前夜もハンバーガーだ。昨日の朝食で食べたパウンドケーキを除けば、私はとにかくずっと「パンに肉を挟んだもの」を食べているのだ。せめて、今はパンに野菜を挟みたい。そう思ってハリウッド大通りのサブウェイに行くことにした。途中、ぼったくりでおなじみ、スーパーマンのコスプレ野郎とすれ違う。朝早くから出勤する、真面目なスーパーマンである。なにやら話しかけてきたが、完全無視だ。一昨日のジョーカー事件で少しは学習した私だった。

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のちに激写したスーパーマン

野菜食べたさにサブウェイに行くことを決意したのはいいものの、一抹の不安があった。パンの種類や焼き方だの、野菜はどれを入れるかだの、とにかくサブウェイは問答が多いのだ。全て英語で乗り切れるだろうか。だが、とにかくもう、ハンバーガーは食べたくない。尾崎豊のようにつぶやくと、私はサブウェイに入店した。

案の定、アメリカのサブウェイも質問攻め方式を導入していた。5分後、かろうじてパンの種類を選ぶところまではクリアしたが、最終的には野菜の細かい質問に耐えきれず、業を煮やした店員に「Everything OK?」と聞かれて「Yes」と答える私がいた。こうして全ての野菜が投入されたサンドイッチは、ほとんど日本と変わらぬ美味しさだったが、時折、正体不明の「すごい辛いピクルス的な何か」が挟まれていて、それに当たった時だけ悶絶したのであった。

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全部入りのサブウェイ

また、髭を剃る術を持っていなかったために、ドラッグストアに寄り、カミソリを購入。レジで愛想のいい店員さんに「How are you?」とか「Have a nice day」とか言われる。日本ではほとんどないが、アメリカではよく、レジで簡単な挨拶を交わすのである。3日目にして肌感覚として理解できたのは、やはりこういった文化は、多民族国家の必要から生まれたのでは、ということだ。日本人のような単一民族国家と違い、人種もバックボーンも違う人々が生活するためには、積極的にコミュニケーションをとることでトラブル回避になるし、逆に不審な人物を早期発見するきっかけにもなる。チップもきっと同じなんだろう。文化の違う人たちをまとめるには、早い話が「お金」の力が必要だったということだ。後払いで、かつ金額が定まっていないことで、誰もが真面目に働くモチベーションになる。徹底的に”性悪説”に則った文化だ。だがそれは、理にかなったやり方だと思う。そう考えると、スッと腑に落ちたし、チップを払うことを面倒だと思う気持ちは薄れていった。

さて、サブウェイを食べ終わり、少しぼーっとしたあと、いよいよ映画祭の始まる時間が近づいてきた。朝のハリウッド大通りは既に観光客で賑わい始めている。3日目にしてようやくハリウッドをちゃんと見る私だった。やはり圧倒的に中国人が多いように見える。チャイニーズシアターの前だからだろうか。

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チャイニーズシアター

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蝋人形館の前のマリリン・モンローと記念撮影する男性

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もうコスプレの域を超えている

さて、私がチャイニーズジアター前の有名な映画俳優の手形を見ていると、突然謎の老婆に日本語で話しかけられた。ジョーカー事件以降、何も信じられなくなっている私は、日本語がわからないフリをして無視を決め込んだのだが、すると老婆は、今度は中国語で話しかけてきた!「多分、日本人。でなけりゃ中国人」という事前の予想があったのだろう。もはや老婆は私を中国人と確信しており、マシンガンチャイニーズトークで何か言っている。だが私は全くそれを理解できない。どうしたらこの老婆から逃れられるのだろうか。今更「実は日本人なんですよ」と言っても、最初わからないフリをしたことがバレて恥ずかしい。困った末、私はカタコトの英語で「ノーサンキュー」と言った。英語がカタコト過ぎてアジア系アメリカ人というのも無理があるが仕方ない。老婆は、「じゃあ結局何人なんだよ!」と思ったか知らないが、私の困りっぷりを見て諦めてくれた。

さて、チャイニーズシアターである。その名の通り、外観は中華街のような建物なのだが、中には最新の上映設備があり、普通に映画館として営業しているようである。伝統的なハリウッドの映画館らしく、中には歴代ハリウッドスターの写真がずらりと飾られている。まさかここで上映されるとは。

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自撮りが下手すぎる

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シアター内の通路

現地に到着するまでは、実際のところ映画祭など行われておらず、騙されている可能性も(失礼ながら)覚悟していたのだが、果たして「Japan Cuts Hollywood」の受付は存在していた。そして、名前を告げると「Film Maker」というPASSをくれたのであった。控え室に通される。そこで会ったのは、日本の映画作品を海外に紹介する会社のQさんであった。アメリカに移住して10年以上というQさんは気さくに色々と話してくださり、助かった。

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受付にて

その日は映画祭も最終日であり、日本の短編作品を連続して上映するプログラムになっていた。私の作品の上映は昼過ぎなので、それまでは他の人の作品を見ることになる。アメリカで日本映画を見るのも変だが貴重な体験だ。やはり話には聞いていたが、アメリカの観客はよく笑う。決して満席ではなかったが、ちょっとしたことでも大きな声で笑うので、楽しい空間が出来上がっていた。たまに、「ここ、笑いどころなのかな?」というところでも笑っていたが、楽しんでいるならそれでいい。

というわけで、拙作「VR職場」も上映され、おかげさまでよく笑っていただいた。日本人にしか通用しないような箇所もあり、その辺は伝わってないような気もしたが、心配していたほど伝わらないこともなく、よく笑っていただいて、ありがたかった。上映後、観客の前に出て挨拶する。私は、「Thank you for watching my movie.」的な定型文を一生懸命喋り、その後すぐさま日本語で「私が英語で喋れるのはここまでです」と言った。通訳の人が訳してくれて、まあまあウケたので、よかったと考えよう。色々と質疑応答もいただいて、面白い体験になった。

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登壇

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映画祭スタッフの人たちの中には、現地で映画作りをしている学生などもいて、そういう人たちと話すのも刺激になるし、大変だったが渡米してよかったと思える体験であった。そして15時くらいに上映が終わり、残された時間でついに私のハリウッド観光が幕を開けたのである。

せっかくなので日本じゃ行けないところに行こう。そう決めた私が選んだ行き先は、知る人ぞ知るダークスポット「Museum of Death(死の博物館)」であった。

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デスバレー国立公園の悪魔【ハリウッド映画祭参加日誌④】

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さて、私の参加した「デスバレー国立公園日帰りツアー」という、「死の谷」という名前に喧嘩を売るかのようなお気軽ツアーは、ベイカーという街でギリシャ風の昼食をすませたのち、いよいよ、デスバレー国立公園の中に入ろうとしていた。夏には40度~50度を超え、アメリカの最高気温記録を保持しているまさに地の果てである。11月だったので、訪れるにはちょうどいいシーズンだったようだが、それでも日差しの強さをひしひしと感じた。

ここまでの行程は5時間をゆうに超えている。つまり日帰りツアーである以上は帰りも同じ時間かかるので、デスバレーに滞在できる時間は短い。しっかり目に焼き付けなければならない。まさにそんな状況で、私の身体には予想外の異変が起こっていた。

めちゃくちゃ眠くなってきたのである。

初めは日差しが強すぎて、目を開けづらいのかと思っていた。だが違った。単純にものすごく眠いだけだったのだ。「なぜこんなことに」鈍い頭で考える。朝、確かに4時くらいに目が覚めている。だが6時間は確実に寝ているのだ。幾ら何でも昼過ぎに眠くなる道理はないのである。

これが、時差ボケなのだろうか。渡米して2日目にデスバレーにきてしまった代償なのだろうか。正直なところ、今まで何度か海外に行ってきたが、時差ボケを実感したことはなかった。歳をとると段々感じるようになるというが、30歳を超えた途端に、待ってましたとばかりに押し寄せてくるのは急すぎじゃないだろうか。もうちょっと段階を踏みながら出現してくれないか、時差ボケよ。そう言いたくもなるくらい、強い睡魔である。

車で移動中にちょっと寝てみたが、なんともならない。

そうこうしているうちにも、デスバレー国立公園に突入してしまった。元気なガイドのZさんはここからが本番だとばかりに、張り切って案内をしてくれている。Zさんはまだ気づいていない。2人の参加者のうち1人が、半分寝ていることに!観光ポイントに着くと、10分くらいの見学タイムがあるので、そこで車を降りるのだが、かろうじて歩いている間は起きているものの、車に戻れば寝てしまう私であった。

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デスバレーの入り口にて。既に眠い。

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まさに死の谷、という感じの注意書き

前回の記事で書いた通り、私は朝、Zさんに「朝早いんで寝ててもいいですよ!」と言われ「全然大丈夫ですよ!ハハハ!」と返しているのである。

あれは何だったのか。

今、このツアーの佳境に差し掛かっているにも関わらず、私は爆睡しているのである。これほど案内しがいのない客も珍しいに違いない。

最低催行人数が2人でよかった

当たり前だがYさんは正常に起床している。Yさんだけでもガイドを堪能してほしい。そしてZさん、ごめんなさい。と、夢の中で私は思った。

とはいったものの、私がかろうじて目に焼き付けたデスバレーの名物スポットはやはり面白いものが多く、一見の価値があったと思う。

 

バッドウォーター

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水が少しだけ地面から湧き出て、水たまりみたいになっているのだが、めちゃくちゃ塩分が濃くて飲めたもんじゃないという、デスバレーで遭難した人に対する嫌がらせのようなスポット。最初に足を踏み入れた西部開拓団の人がこの水を飲んで「Oh! Bad Water!」と言ったに違いない。

 

悪魔のゴルフコース

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こちらはちょっとひねりのあるネーミング。こんな場所でゴルフをするやつは、確かに悪魔だ。悪魔というか、物好きだ。エイリアンの店でジャーキー買うくらい物好きである。ここでのゴルフに飽きた悪魔の1人が、睡魔となって私に取り付いていたのだろうか。

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全く目の開いていない私

■ザブリスキー・ポイント

やけにウネウネしている。何万年も前からそのままの地形らしい。だからって何でうねっているのかは不明。

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サンド・デューン

スターウォーズのロケ地として知られる、THE・砂漠。

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砂漠で立ったまま寝る男。地球で一番砂漠をナメている生物。

そしてデスバレー国立公園のビジターセンターでは、やたらと水が安かった。今までのアメリカの物価の高さから比べると半額くらいだろうか。必需品だからこそ、なるべく安く売ろうという良心を感じて感心した。ぺこぱも言っている通り、水と知識は独占してはいけないのである

そんなこんなでデスバレーの主要スポットを駆け足で見て回り、(ちゃんと見ようと思ったら数日かかかるらしいが)1時間ほどでツアーは帰路へついた。

もちろん私は帰路も爆睡である。

荒野に沈む夕日も見れたはずだが、そんなことはお構い無しに私は寝続けた。そして、起きた時には、夜のLAに到着していたのだった。

やや、気まずい。Zさんも、呆れているだろう。

とは言え明るいZさんは、そんなことはおくびにも出さず、朗らかに私をホテルまで送り届けてくれた。途中、日本の「スーパー銭湯」の話になったが、Zさんが「私はね、昔から湯船に浸かるのが嫌いだったんですよ」と言っていたのが印象的だった。私が初日から感じていた「風呂好きはLAには住めない」という珍説が現実味を帯びてきた。

そう言えば、初日にタクシーの運転手がオススメしていた「インアンドアウトバーガー」を夕食に食べようと思い立った私は、ホテルの近くの「インアンドアウトバーガー」前でZさんに降ろしてもらい、このツアーを終えた。ありがとう、Zさん。そしてデスバレー。

「インアンドアウトバーガー」の店内は、さすがタクシー運転手のおすすめとあって、かなり混雑していた。やはり人気店なのだ。チェーン店らしいが、日本には進出していない。これは良い機会だ。私は、人気のチーズバーガー的なセットを「to go」(テイクアウト)して、ホテルで食べてみた。確かに美味い。シンプルな味なのだが、肉の味がしっかりするというか、そんな感じだ。ポテトも山盛りである。

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日帰りでデスバレーに行って、寝ながら帰ってきて、そのままハンバーガーを食べられるなんて、いい時代に生まれたものだ。私という人間の堕落ぶりを見たら、西部開拓団のカウボーイは何と言うだろうか。彼らの冒険は無駄じゃなかったと思ってくれるだろうか。いや、鞭でひっぱたくだろう。

そんなこんなで、明日はいよいよ最終日、そして映画祭なのである。

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LAの朝日と「エリア51」のB級スポット【ハリウッド映画祭参加日誌③】

前回の記事

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さて、ジョーカーのカツアゲ事件から一夜明けた午前4時、私はルーズベルトホテルの304号室で起床した。昨日22時ホテルに着くなり泥のように就寝。だが、6時間後には起床していた。通常ならもっと寝ていてもおかしくない。やはり、まだ時差に慣れていないのだろう。

LAに着いて2日目、私は「デスバレー国立公園」という国立公園を巡る現地の日帰りオプショナルツアーに申し込んでいた。日本語のドライバーさんがつくので、言語の面は安心なのだが、最低催行人数が2人のところ、当初は私しか申し込みがなかったため、実施が危ぶまれていた。ギリギリでなんとか2人目の申し込みがあったらしい。

ネガティブ思考でインドア派にも関わらず、貧乏性なのが私の悪いところで、せっかくアメリカに行くのだから雄大な自然でも見なければ勿体無いという思考のもと、よせばいいのに2日目から国立公園に行くのだ。LAのほとんど何も見ていないうちから、LA脱出である。ネガティブと貧乏性が合わさって、結果アクティブになるという意味不明な状態だ。

何しろデスバレーは遠い。どこまでもまっすぐなアメリカの国道をぶっ飛ばしても、片道5時間、往復10時間以上の行程である。ツアーの95%が移動なのだ。だがデスバレー国立公園自体は面白そうではある。LAとラスベガスの間にある広大な荒野と奇妙な地形、そして、アメリカ国内の最高気温を記録したという強烈な日差し。その昔、アメリカ西部の開拓団が「死の谷」と名付けた、まさに地の果てなのだ。今回の旅の目標は、ついつい視野の狭くなりがちな渋谷近辺の日常から脱出して「世界の広さと自分の小ささを実感」し、リフレッシュにつなげていこう、というもの。そういう意味では、デスバレーはコンセプトに合っている。ビットバレーからデスバレーへ。そんなに谷が好きなのだろうか。

 とはいえ出発までは2時間ほどあった。持ってきた仕事を片付けよう。日本では夕方~夜の時間帯。色々とメールだなんだが届いている。

そして私は6時過ぎ、ホテルまで迎えにきてくれたZさんのバンに乗り込んで、デスバレーに向けて出発したのであった。ドライバーのZさんは現在60代。30代の時日本からLAに仕事で赴任し、現地で結婚したため永住を決めたという経歴の持ち主だった。昨日のタクシードライバーと同じ、30代からの移住組だ。Zさんは元気だった。めちゃくちゃ声がでかい。心なしか、日本の60代より活気があるように感じる。というか、私よりも元気じゃないだろうか。やはりLAの空気は、人間を元気にするのかもしれない。不思議と、それは現地にいると実感できた。落ち込んでてもしょうがない雰囲気がここにはある。

もう1人の参加者を迎えにいくため、ダウンタウンリトルトーキョーに向けてバンは走る。正直、ちょっと見てみたいと思っていた地域なのでラッキーだ。全然知らなかったが、LAダウンタウンといえば、高層ビルの立ち並ぶオフィス街だった。だがリトルトーキョーには今はもうあまり日本人はいないらしい。とはいえリトルトーキョーには、日本語の表記のお店がいくつかあった。何だか、百年前に日本からこの地にやってきた日本人たちのことを思うと感慨深い。今よりもはるかに移住のリスクのあった時代に、移住しなければならない事情とか、太平洋戦争中に白い目で見られたこととか、現地に行くと色々と考えるものだ。

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リトルトーキョーにある"酒道場"

もう1人の参加者の男性のYさんは、社会人だったがLAの近くの都市の大学だか企業に留学していて、2ヶ月だかそれぐらいの留学が終わりに近づいてきたので、LA観光に来たついでにこのツアーにも参加したとのことだった。普通はそうなのだ。LAついて2日目でデスバレーに行くヤツはおかしいよ。現地ついたらよくわかった。

そんなこんなでZさんとYさんと私の3人のデスバレーツアーが始まった。LAのハイウェイの向こうから朝日が昇ってくる。空が広いから朝日も綺麗だ。思わぬ絶景。写真を撮る私をよそに、Zさんはめちゃくちゃデカい声でYさんに自己紹介をしている。Zさんにとってはこれが日常なのだ。

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LAの朝日

Zさんは元気よく「朝早かったんで、遠慮せずに寝ちゃってください!!!!」と言った。私は、ホテルでがっつり寝ていたし、全く眠くなかったので「全然大丈夫です!!!ハハハ!!」と言った。何が面白いのか不明だが、Zさんの元気に負けないように笑っているのだ。

出発して3時間くらいが経過した。やがて街並みはなくなり、山が目立つようになってきた。さらに1時間後、車は完全な荒野の中を走っていた。まさに西部劇。

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荒野の中をひた走る

どこまでも続く荒涼とした風景。この中を馬で移動するとか、正気の沙汰じゃない気がした。昔見た「ノクターナル・アニマルズ」という映画を思い出した。調べたら、まさにロサンゼルスの荒野で撮影した映画だという。何とも形容しがたい不思議な映画だった。つまらない訳じゃないけどどこが面白いともよく分からない。それと同じように、目の前の荒野にも、不思議な魅力があるように感じた。

 

(と思ったら予告編にはあんまり映ってなかったが↓01:09あたりの感じ)

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Zさんは昼休憩のために途中のベイカーという街に寄ると言った。荒野の中をどこまでも続く道の先に、街が見える。この時、「RPGゲームって実写にしたらこういう感じなんだ」と思った。ポケモンとか、ドラクエとか、街と街を道がつなぐマップが基本だが、東京にはそういう明確な街の分かれ目がないので、いまいちピンとこなかったのだ。 

イカーはロサンゼルスとラスベガスの間にある街だが、それだけではない。この地域には「エリア51」という米軍基地があり、そこで宇宙人の研究をしているという噂があるのだ。そのため、ベイカーは世界中からオカルト好きが集まる街でもある。そんなオカルト好き達を相手に商売するのが「エイリアン・フレッシュ・ジャーキー」という店である。

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一見して分かる、B級スポットだ。アメリカのA級スポットを見る前から、B級スポットを訪れてしまった。日本にもよくある、観光客だけを相手にしたコンセプトショップなのだが、特筆すべきは、この店の主力商品が「ジャーキー」であることだ。宇宙人Tシャツなども売ってはいるがごく1部で、店内にはビーフジャーキーが所狭しと並べられている。一体、エイリアンとジャーキーに何の関係があるのだろうか。Zさんもよく分からないと言っていた。ジャーキーの他には、ホットソースもかなりの品揃えである。だからなぜだ。Zさんが言うことには、今までツアーに参加した日本人客の中で、1人だけ、店のジャーキーやホットソースの品揃えに大喜びし、大量に買い込んだ人がいたという。どこの国にも変人はいるものだ。変人に国境はないとも言える。

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店内の大統領風エイリアンとジャーキー

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完全にヤバいやつ

昼食はタコスか、ギリシャ風タコスかを選べることになっていた。この街にはそれくらいしか飲食店がないのである。基本的には肉や野菜を小麦粉を練ったもので挟む文化なのだ。飽きないのだろうか。せっかくなのでギリシャ風タコスを食べることにした。「ギリシャ風」のイメージが全く湧かないが、これも経験だ。

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外観のギリシャ感がすごい

結果、ギリシャ風は美味かった。正確に形容することはできないが、バーベキュー的なソースだった。ただ、肉をラップしただけの料理とポテトで10ドル超えてしまうのは流石の物価である。もちろんポテトは大量なのでお腹はいっぱいなのだが。

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ギリシャ風タコス

この街を出ればいよいよデスバレーである。だが、この時私に、とある悪魔が忍び寄っていることなど、知る由もなかった。(やけに大げさな終わり方で次回へ続く)

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ハリウッド大通りのジョーカー【ハリウッド映画祭参加日誌②】

前回の記事

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激烈な睡魔に襲われながらも、なんとか無事に「ハリウッドルーズベルトホテル」に到着した私だったが、そこでぐっすり眠るわけにはいかない。17時から人と会う約束があったからだ。それはトラベロコ というサイトで連絡を取ったXさんという人で、ロサンゼルスに住んで映画関係の仕事をしているという人だった。トラベロコ とは、世界中に住んでいる日本人にお金を払うことで、観光案内とか、通訳とか、いろいろお願いすることができるというサービスだ。一度、当日ドタキャンという目にあったことがあるが、今回はそんなことはなかった。1時間だけ仮眠をとって無理やり起き上がり、Xさんと合流する。ハリウッドサインの近くと、LALA LANDのロケ地でもおなじみのグリフィス天文台へ連れて行ってくれることになった。ただし、金曜日の夕方は、車社会のロサンゼルスでは渋滞がひどい。だが、車の渋滞も、それはそれでLALA LANDのオープニングを感じさせる。道中、色々とこちらの映画界の話を聞いた。印象的だったのは、アメリカの映画界は徹底的な金儲け主義なので、映画の資金を集めるために投資家にプレゼンしようと思ったら、「俳優は誰か」「なぜこの映画はヒットするのか」だけを徹底的に売り込まなくてはならない。だが日本では「この映画を作る志は?」と聞かれて驚いたそうだ。どちらがいいというものでもなさそうだが、単純にハリウッド映画の強さは、やはり徹底的な金儲け主義から来ているのだろう。

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例のアレ

グリフィス天文台の駐車場には長蛇の列ができていた。LALA LAND以降、かなり賑わっているらしい。グリフィス天文台は、天文台というよりはそこから一望できるロサンゼルスの夜景が人気だ。夕日が沈んだ直後の、なかなかいい景色を見ることができた。

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「LA LA LAND」以降、グリフィス天文台の人気は沸騰しているらしい

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ちょうど、マジックアワーと呼ばれる時間帯だった

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ものすごく逆光の私

夕食、Xさんに地元のハンバーガーレストランに連れて行ってもらう。ハンバーガーのボリュームもさることながら、ポテト(フレンチフライ)の量が半端ない。飲み物も基本的に酒かコーラなどのジュース、もしくは水しかない。お茶がないのだ。逆に、この食文化で太らずにいることの方が難しいだろう。食べきれない分は「to go」と言えば持ち帰りできるらしい。だが、持ち帰って深夜に食ったりすれば、それはそれでガッツリ太るだろう。アメリカでは、太るか、捨てるか、二者択一なのだ。

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暴力的だが、美味い

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手前が丸いポテトフライで奥はサツマイモのフライ

 3日間の現地滞在の1日目が終わろうとしている。私は2日目は「デスバレー国立公園」をめぐる日帰りツアーに申し込んでいた。XさんはLA20年住んでいるが一度も行ったことがないらしい。「結構遠くないですか?」と驚いていた。砂漠に行くなら帽子は絶対に買った方がいいと言う。確かにその通りだ。幸い、ハリウッドには土産物屋がたくさんある。私はホテルの前にあるハリウッド大通りの店でXさんに降ろしてもらい、別れた。「LA LA LAND」という名前の、いかにも観光客向けといった感じの、ハリウッド土産を網羅した店だった。そこで私は「Hollywood」と書かれた、激烈にダサい帽子を買うことにした。そういう帽子しかなかったのだが、被るのは明日だけだし、これも思い出だ。

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アメ横でも売ってそうなハリウッド帽子

だが、この店を出た直後に初日最大の事件が起こってしまう。私が、店の外観の写真を撮ろうとしたその時、なんと、

暗闇からジョーカーが現れたのである。

正確にはジョーカーのコスプレをした男だが、ついこの間映画「ジョーカー」を見た私はすっかり不意を突かれてフリーズしてしまった。ジョーカーはフレンドリーな様子で、「一緒に写真を撮ろうぜ!」と言ってきた。私は、ちょうどスマホをカメラモードにしていたこともあり、勢いに押されるまま、「お、OK」と言って、カメラを構えてしまった。だが、その時、脳裏によぎったのは4年前のスリランカ旅行、像との記念撮影でぼったくられた記憶である。

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「あ、これお金請求されるやつだ」だが気づいた時にはもう遅い。ジョーカーは上機嫌で「Where are you from?」と聞いてくる。馬鹿正直に「Japan」と答えてしまう私もマヌケだが、ジョーカーが怖すぎて、テンパってしまったのだ。

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完全にテンパっている私とジョーカー

撮影が終わると、ジョーカーが何か言っている。

「Need you!

… ? なぜジョーカーは私を必要としているのだろうか…?

戸惑いMAXである。理由は分からない。分からないが、ジョーカーに必要とされてもいいことなんてあるわけない。悪の手先にされるか、下手すりゃ殺されるだろう。お金を請求される方がまだマシだった…。私がフリーズしていると、次にジョーカーは

This is Hollywood! Need you!

と言った。ジョーカーの意図を探る新たな言葉登場である。……もしかして、「ハリウッドが君を必要としている」ってことだろうか。もしかしてこのジョーカー、ハリウッドの覆面スカウトマンか何かで、私が若手の映像制作者であることを知っていて、秘密裏に接触してきたのだろうか。ハリウッドにドラフト制があるとは聞いたことはないが、NBAみたいに実はあるのかもしれない。

この間数秒、私の頭はフル回転しているのだが、ジョーカーは私が反応しないのに業を煮やした様子で、ポケットからお札を取り出して、それを示しながら、「Need you! This is Hollywood!」と再び連呼し始めた。20ドル札である。そこで私はようやく理解した。

もしかしてこれ「Need you」じゃなくて「にじゅう」なのでは?

ジョーカーは一生懸命覚えた日本語で20(にーじゅー)と連呼していたのだった。「ここはハリウッドなんだから、ジョーカーと写真撮ったら20ドルくらい払うのは当たり前だろボケ!」と言っていたのだ。ジョーカーは全く私を必要としていなかった。やっぱり必要としていたのは金だった。さらにジョーカーは様々な紙幣を取り出し、「おつりならあるぜ!」みたいなことも言っている。20ドルは、高い。てっきり5ドルくらいだと思ってた。写真1枚である。払いたくない。だがその時私は背後に気配を感じた。囲まれた…。焦って振り返ると、なんとそこにはスパイダーマンとスーパーマンがいて、私が逃げられないよう固めていたのだった。OMGとはこのことだ。お前ら正義の味方じゃないのかよ…。仕方なく私はジョーカーに20ドル札を渡して立ち去った。

全く自分の平和ボケぶりには呆れるばかりだ。高い勉強代と思うしかないが、同様のミスは2度目なので、反省しきりである。しかし、映画「ジョーカー」を見た直後だけに、実際に出会ったジョーカーのやっていることが、やけに象徴的というか、映画の内容とシンクロしているように感じられて、私の印象に深く残る出来事になった。

 

続く↓

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ハリウッド映画祭参加日誌 〜ハリウッドルーズベルトホテルに着くまで〜

成田発、ロサンゼルス行きの飛行機の中でこの文章を書いている。17時に成田を出発して、既に4時間が経過した。機内は消灯、闇に包まれているが、私は眠れないため、この文章を書いている。夜型の生活を送る私にとって、21時はまだ昼下がりのようなものだ。そういう意味では、生活サイクルは既に米国人と同じである。逆に日本基準で見れば、常に時差ボケしているようなものだ。その状態で今までやってこれたのだから、正しいサイクルに矯正すれば、たちまち天下が取れるのではないだろうか。一度、刑務所にでも入るしかない。

さて、なぜ私がロサンゼルスに向かっているのかというと、「Japan Cuts Hollywood」という映画祭に参加するためだ。その名の通り、ハリウッドで行われる日本映画ばかりを集めた映画祭で、その短編部門で、私が監督した「VR職場」が上映されるのである。

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なんと会場はハリウッドの中心にある有名な映画館、チャイニーズシアターだ。「アメリカのチャイニーズシアターで日本映画の特集」というのも、ややこしい話だ。「名古屋名物台湾ラーメン アメリカン」を彷彿とさせるが、まあとにかく、自分の作品があのチャイニーズシアターで上映されるのだから、一生の思い出になるだろう、という気持ちで行くことに決めた。どうやらレッドカーペットには篠原涼子さんまで来るようだ。作品募集がかかっていたときはここまで大事になると思っていなかったが、私のような映画初心者の作品を選んでいただいたということは、まあラッキーとでも言うしかない。

 

そんなことで、ハリウッドに行くと決めたはいいものの、私はフリーランスになってから海外に行くのは初めてだ。通信はできるとはいえ、実質5日間、作業が止まることになる。会社員なら、社内の了解が取れていればなんとかなるが、現在の私は大小合わせて約10の仕事を抱えており、それもサイクルの速いネット動画業界であるからして、5日間もあれば締め切りだって沢山あるのである。関係者への周知と、前倒しの作業で、10月はめまいがするほど忙しかった。なるべく自由になりたいと思って選んだフリーランスの道だったが、5日間空けるだけでヘトヘトになってしまうのは果たして自由と言えるのだろうか。休むより仕事してた方がむしろ楽というのは不思議なものである。どうも今回のことで、自分がいかに働きすぎかという実感も出てきた。働きすぎの割には稼げてないような気もする。その辺に一旦冷静になって向き合うのも、今回のアメリカ行きの目的の1つだ。

そんな忙しさと関係があるかどうかは知らないが、8月末にぎっくり腰で救急車で運ばれてから、体調は崩しっぱなしであった。

・外耳炎

扁桃

・目の炎症

・原因不明の咳

・慢性的な胃の不快感

次々に襲って来る「まあまあ辛い」症状の数々。決して仕事を休んだり入院したりするほどではないが、元気でもないという状態だ。毎週何かしらの病院に通う日々。さらに腰痛も予断を許さない状況なので、鍼灸院にも通った。今も、咳は完全には治っていない状態だ。突如として襲ってきた不調の数々に、精神的にも辛い日々が続いた。運が悪いだけならまだいいが、大病の予兆だったら最悪だ。帰国したら健康診断にでも行こう。そんな暇があればの話だが。いや、時間は作るんだ。書きながら自分に言い聞かせている。

何しろ今年に入って既に2回も爆発した腰を抱えての10時間フライトである。数日前には鍼灸院で全身に針を打って十分なメンテナンスを施してきた。仕組みはよくわからないが、施術後にわかりやすく痛みが軽減されるので信頼している。だが、それでも10時間フライトに対しては、全くもって不安しかない。ここを乗り切っても帰りだってある。我が腰は負債をため込んだ後、予兆などなく突然爆発するのだ、ある意味、私と性格が似ている。

久々の成田空港だった。ターミナルには、季節を先取りしてクリスマスの飾り付けがされていたが、雑な和洋折衷サンタが多数設置してあり、旅行客たちの記念撮影スポットになっていた。

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国際線ロビーに設置された、狂気のサンタたち

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忍者サンタは窒息しているようにしか見えない

空港でも仕事を2つ片付けた。搭乗ゲートでもまだメールを打っている。そんなこんなでガイドブックは買ったが読んでおらず、英会話フレーズ集もお守りがわりに買ったが全く読んでいない。4年前のスリランカ旅行で英語力を身につけることを誓ったはずだったが、喉元過ぎればなんとやらで、スリランカの大仏にも呆れられているだろう。だが、今回旅のお守りはもう1つある。自動翻訳機のili(イリー)である。なんと日本語で話しかければ自動で英語に翻訳してくれるという。ついに新時代の幕開けだ。頑なに英語力を身につけなかったからこそ受けられる最新技術の恩恵だ。そんなわけで慌ただしく貸し出し手続き、仕事に追われたあと、機上の人になったのだった。もはやネットは繋がらない。忘れていた仕事があってももうどうしようもない。

ちなみに今回はJALなので、機内の言語コミュニケーションは安心だ。一通り、正面のモニターのコンテンツをチェックする。映画、バラエティなど様々だ。結構最新作まである。なぜか千鳥の「相席食堂」と「アメトーーク」が1エピソードずつ収録されている。ゲームは非常にシンプルで、将棋やリバーシなどの基礎的なものしかない。もうちょっと充実しても良いような気がするがどうだろう。スリランカのカエルが石を吐き出すゲームはやはりJALにはないようだ。

久々にテトリスをやってみる。ひたすら石を積んでいく作業……ソビエト風の音楽……頭の中に「労働」という文字が出てきてやめた。とにかく、まだ脳が疲れているのだろう。「アメトーーク」でも見ようじゃないか。まだ先は長いのだから。

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【数時間後】

 

あと1時間で到着するとのこと。日本時間でまもなく深夜3時になる。普段だったらこれから寝るような時間だ。アメリカでは朝の10時らしい。よく考えたら、昼夜逆転でも、全然アメリカには合ってなかった。むしろ真逆だった。そろそろ眠くなってきた頭で、私のハリウッド一人旅が始まろうとしている。不安でいっぱいだ。

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機内での朝食は吉野家。もちろん美味いが、わざわざ空の上で食う意味があるのかは不明

何だかんだで到着は2時間ほど遅れたらしい。現地時間AM12:00、私はロサンゼルスに降り立った。日本の深夜5時。めちゃくちゃ眠い。いつもならちょうど就寝している時間であった。まあとにかく、これからは異国なのだ。油断は禁物である。

出国審査には巨大な行列ができていた。何重にも折りたたまれた行列が続いている。窓口は少ししか空いていない。行列は全く進まない。これは、1時間はゆうにかかるのではないだろうか。私は行列に並ぶのが苦手だ。しかし、無力な私はその暴力的な行列に並ぶしかないのである。人種も様々な人々がおとなしく列を作っている。例えば戦時中に亡命した人たちとか、難民の人たちとか、きっとこういう行列に気が遠くなるほど並んだだろう。ついそんなことを連想した。旅慣れていない私は10:00に飛行機がつく予定と聞いて、15:00にホテルにチェックインするまでの5時間で、どこか見に行けるのではないか、と考えていた。甘かった。13:00をすぎても、私はまだ入国審査の列に並んでいた。

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自由の国アメリカへの第一歩は不自由な入国審査から始まった

入国審査をやっとの事で通過すると、ロサンゼルスの強い日差しが目に入ってくる。これがアメリカ合衆国第2の都市、ロサンゼルスの日差しか。ロスと呼べば外国人には通じず、LAと呼べばなんか気取った感じになる、あのロサンゼルスである。何となく、ローラがよく行ってるような、もしかして住んでたっけ?みたいな、そんなイメージがある。

超がつくほどの快晴だった。というか、一年中この天気らしい。日差しは強いが、乾燥しているので不快ではない。まさに聞いていた通りのアメリカ西海岸だった。タクシー乗り場を探したが、なかなか見つからない。どうもロサンゼルスの移動は今やUberが完全に主役になり、タクシーはあまり走っていないらしい。Uberに乗ってみるのもこの旅の目標の1つではあるが、いきなりここでトライするほどの勇気はない。何となく、プロであるタクシーの方が安全なのではと思ってしまう。しばらくウロウロしていると、バスの前でおじさんが「Taxi!」と叫んでいる。どうもタクシー乗り場に行くためにはシャトルバスに乗らなければならないと言っているようだ。

シャトルバスに乗ってみた。飛行機を降りた時には周りにたくさんいた日本人たちはいつの間にかいなくなり、満員のバスの中に日本人は私1人だった。黒人、白人、アラブ人、でかい人、小さい人、スキンヘッド、アフロ。これがアメリカか。教科書に出てきた「人種のるつぼ」という言葉が記憶の彼方から蘇る。「いや、そもそも”るつぼ”を知らねえから!」というツッコミでお馴染みのあの言葉。例えとして成立していない言葉。学生当時は何かバカにしていたが、何十年か越しでようやく実感する。

「人種のるつぼってこれか」

“るつぼ”の意味は今だに知らないけど。

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ロサンゼルス国際空港にはUber乗り場が正式に設置されている。

果たしてシャトルバスは予想通り私をタクシー乗り場へと連れて行ってくれた。ようやくタクシーに乗れた。ついに空港脱出である。タクシー運転手に、滞在先である「ハリウッドルーズベルトホテル」の名前を告げる。タクシーは走り出した。早速だが、魔法の翻訳機「ili」を使ってみる。

「私は日本人です」I am Japanese

通じた。別に翻訳してもらわなくてもこれくらいは自分で言えばいいのだが、とりあえず使ってみたかったのだ。

「ホテルまでどれくらいですか?」

通じた。しばらく使った結果「ili」の打率は大体7割くらいだった。たまに通じないこともある。

「この街でオススメの食べ物はありますか?」

と聞いたときは、タクシーが突然近くのファーストフード店に入りそうになったので、運転手のおじさんに、慌てて「NO!NO!」と伝える。「この店は嫌なのかい?」的なことを言ってるので、「そうじゃなく、別に今食べたいわけじゃない。ホテルに行ってくれ」と身振り手振りで伝えることに。これはiliが悪いのだろうか。それともおじさんが早とちりなのだろうか。ただ、もうそこまで行くとiliを介すのが面倒になってきたため、iliはお守り的にジャケットの胸ポケットに入れ、結局自力のカタコト英語で会話することになった。運転手のおじさんは60代だが、30年前にロシアのモスクワから移住してきたらしい。やはりここでも人種のるつぼである。ということは30代で移住してきたということじゃないか。自分が今からアメリカに移住することなど考えられるだろうか。「なぜ移住したのか?」と聞いてみたが、おじさんの回答は私のリスニング能力の限界により聞き取れなかった。おじさんに、改めてオススメのグルメを聞いてみる。「ハンブルゲン」と言っている。「ハンバーガー」のことだと気づくまでに少し時間がかかった。「インアンドアウトバーガー」というのがおすすめだそうだ。「日本食は食べるか?」と聞いてみた。あまり食べないらしい。寿司とか、食べないのか聞いてみると、「俺は生の魚は食べない」と強い口調で語った。「魚を釣る。切る。BBQ。最高だぜ」と何度も言っていた。とにかく火を通したい人なのだ。「日本人は馬だって火を通さずに食べる」と言ってみたかったが、なんか引かれそうなので、言えなかった。

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タクシー車内から見たロサンゼルス

車窓からロサンゼルスの景色を見ているうちに、私はこの町の巨大さが徐々に分かってきた。基本的にはどんな通りでも4車線以上あるし、道路は真っ直ぐで、結構スピードを出すのだが、街並みはどこまでも続いている。何もかもが密集している東京とはまるで違う。ロサンゼルスにはセブンイレブンが沢山あったが、これだけ街が広ければあの悪名高き近隣出店もできないだろう。私がセブンを見つけて驚いていると、運転手のおじさんがやや得意げに「7時から11時まで開いてるからセブンイレブンって言うんだぜ」と言った。知ってるよ。日本でもその話は有名だよ。

ちなみに、後日現地在住の日本人にセブンの話題を振ってみると、「日本のコンビニみたいに楽しくないよ」と言っていた。コンビニを楽しいと思ったことがなかったので、なかなか新鮮な表現だ。実際にロスのセブンに入ってみると、確かに、食料品が売っているだけの、小さなスーパーのような感じだった。弁当などもなく、パンやサンドイッチ程度だ。そう考えると日本のコンビニは「楽しい」ということなのだろう。些細なところにも「ロード現象」は転がっている。(ロード現象:何でもないようなことが幸せだったと思うこと)

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セブンイレブンがそこら中にある

話が逸れた。ロサンゼルスの巨大さである。それは、道路の広さとか、一軒家の大きさとか、そういうところだけではない。そこらへんの街路樹が大木なのである。このレベルの木、日本だったら御神木だ。下手したら抱きしめて大自然のパワーでももらおうかというレベル。それが、その辺の街路樹として生えている。暗黒大陸に踏み込んだネテロ会長のように「デカすぎる!」と呟いてしまう自分がいた。

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車との対比をご覧いただきたい。デカすぎる…!

一方で巨大な分、高層ビルはあまりないし、空家のようなものも多い。そういう意味では、東京のような「コンクリート・ジャングル」という感じはない。(後日通ったダウンタウンの方はそんな感じだったが)日本の地方都市をスケール2倍にしたような街並みがどこまでも続いているのだ。ロサンゼルス在住の日本人のある人は、「ここは田舎だからね」と言った。確かにそれもわかる気がする。

そんなことを考えていたら、タクシーはホテルについていた。既に15:00を過ぎている。今回泊まる「ハリウッドルーズベルトホテル」はハリウッドのど真ん中、チャイニーズシアターのすぐ前にあり、かつてマリリン・モンローが売り出し中の時に2年間住んでいたという逸話でも知られている。そのため、マリリンの幽霊が出るという噂もあるらしい。実際、ホテルの中には有名人の写真が飾られていた。部屋もバスタブがないこと以外は申し分ない。銭湯をこよなく愛する日本人としては、バスタブのないこの部屋に2年住むのは厳しいと感じてしまうが、マリリンは平気だったのだろう。ちなみに私の眠気はピークに達していた。だが、そこでぐっすり眠るわけにはいかない。17時から人と会う約束があったからだ。

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ベッドに謎の枠がついているが、概ねいい部屋

続く

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